アイドル作家が語る「アイドルという物語」 向井地ジキソー特別編

WEB文芸界きっての「アイドル作家」板野かも先生が縦横無尽にアイドルの魅力を語り尽くす、「48ers」独占連載エッセイ「アイドルという物語」。
久々の特別寄稿となる今回は、2018年の総選挙で待望の選抜復帰を果たし、12月には48グループ次期総監督に指名された「みーおん」こと向井地美音への思いを語り尽くして頂きました。

「おかえり、みーおん」――彼女と私の交わした約束

 今を去ること7ヶ月前。2018年6月16日、多くの話題を巻き起こしたあの第10回選抜総選挙の開票を、私もまた緊張に手を震わせ見守っていた。指原、柏木、山本不在の今、史上初の世界女王に、そして新たな「神7」の座に輝くのは誰なのか。国内外幾百万のファンの興味がその一点に注がれる中、私にとって最大の関心事はそれよりも手前にあった。

 第22位、岩立沙穂。第21位、奈良未遥――徳光氏の朗々たる声が次々と名を読み上げていく。ここまで来れば、残る上位に誰が入っていて誰が入っていないかはファン全員が理解している。重要なのはその順番だけだ。第20位、白間美瑠――この瞬間、NMBからの今年の総選挙選抜がただ一人であることが確定する。第19位、小嶋真子。第18位、高柳明音――各々のファンの応援もむなしく、惜しくもアンダーガールズにとどまったメンバー達が壇上で声を震わせる。残り17名。実況のキーボードを叩く私の手も緊張で真っ白である。きっと「彼女」も同じであろうと思う。あの子は今、どんな思いで徳光氏の次の言葉を待っているのか。

 そして次の名が呼ばれる。第17位、松村香織――刹那、私の脳裏に電撃が閃く。松村達のファンには申し訳ないが。「よかった」――誰か一人が報われるかわりに誰か一人が泣いていると知っていながらも、それでも安堵と歓喜に身を震わせずにはいられない。昨年の総選挙シングル「#好きなんだ」のPVがしばらく悔しくて見られなかったという彼女。翼を溶かされ地に落とされた一人の少女が、臥薪嘗胆の一年を経て、己の足でこの場所に戻ってきた。
 おかえり、みーおん――。ネットの向こうの多くの同志達とともに私もツイートを打つ。AKB48向井地美音の選抜復帰の瞬間であった。

 何かの間違いとしか思えなかった痛恨の選抜落ちから一年。感動の復活劇から少し経った頃、私は握手会で彼女に選抜復帰のお祝いを述べた。ここで嬉しい驚きがあった。彼女は、私が総選挙の前にこのサイトに掲載したエッセイ記事「アイドルという物語」を読んでくれていたのである。
 その時のやりとりを私は克明に覚えている。あの「AKB48グループセンター試験」の解答解説を私が執筆したことに触れると、彼女はコンマ数秒ほど首をかしげ、「そのサイト、私の記事も載ってませんでしたか?」と問うてきたのだ。私が胸を弾ませ、それを書いたのも自分だと告げると、彼女は「すごくイイ記事でした」「また私の記事書いてください」と満面の笑みで言ってくれた。物書きを生業として久しいが、まこと文筆家冥利に尽きる思いであった。
 多くのファンに支えられてこの年の総選挙を戦い抜いた彼女。私が投じることができた票など全体の数千分の一に過ぎない。それでも、戦場に臨む彼女の勇気に、私にしか出来ない方法で少しなりとも貢献できたのなら、望外の喜びであると思った。

 そして今、私はこのサイトで2本目となる彼女のエッセイ記事を書いている。「また書いてください」と言われ、必ず書くよと約束してから実に半年――ここまで時間を空けた理由はただ一つ。あの日、総選挙の壇上で語った彼女の誓いが成就するのを待っていたのだ。

ポストまゆゆ談義からジキソー談義へ 激動の2018年

 2017年のAKB界隈を覆っていた「ポストまゆゆ」論議に代わり、2018年は「AKBの顔」を誰に委ねるかが取り沙汰された一年だった。全盛期を牽引した黄金の七人は今や全て秋葉原を去り、残った柏木由紀も気付けば27歳。村外に通じる確たるスターを若手から出さなければ本店に未来はない。前年のポストまゆゆ争いを制して投票券シングルのセンターを張った小栗有以か、公演エースとSTUキャプテンの二刀流で名を挙げた本店最上位の岡田奈々か、それとも……。
 エース談義にセンター談義、界隈のあちこちで繰り返される下世話な議論の中で、必ずセットで話題に上るのが、横山由依に続く三代目総監督の座を誰が継承するかということだった。岡田奈々、高橋朱里、岡部麟と様々な名前が挙がる中、多くの人が「本命」と信じて疑わなかった一つの名がある。選抜復帰の壇上で「AKB48のために生きていきたい」と告げ、新たな夢を堂々語った我らが向井地美音。48グループの歴史上、総監督就任を自ら志願したのはこの時の彼女が初めてであった。

 賢さを気取るファンは物事の裏を読みたがる。「いつの日か総監督になりたい」と彼女が宣言したその時点で、既に裏では彼女のジキソー指名に向けて話が動いていたのではないかと言う者もいる。事の真偽はともかく、彼女は実際、この新たな夢を現実にするために如才ない立ち回りを見せていた。総選挙の直後に本人がSHOWROOMで語っていたところによると、総監督志願を壇上で宣言することについて、彼女は事前に横山由依と柏木由紀にだけ話を通していたとのことである。現任者と重鎮のお墨付きを得ることで周りを押さえ込む戦略も賢いが、それをSHOWROOMを通じてファンとメンバーに知らしめるに至っては見事と言うほかない。印籠は見せなければ意味がないということをよく知っている。この時、私は彼女こそ次期総監督であろうとの確信をさらに深めた。

 だが、それは同時に――きっと本人も目にするであろうこの場でこんなことを書くのは辛いが――、次期エース、次期センターを巡る争いからは降りるという意思表示でもあった。

誰もが勝てない世界で彼女が選んだ「3つ目の道」

 AKB界隈に知られた私の小説「IDOLIZE」で、指原莉乃をモチーフにした指宿リノという登場人物がこんなことを言う。「本気になったからって誰もが勝てるとは限らない」――本気のライバルを蹴散らして女王であり続けた人物ならではの言葉だ。

 かの大島優子の指名を受け「ヘビーローテーション」のカウントアップを高らかに歌い上げたときの向井地美音は、きっと、自分こそがAKB48の次期エースであると信じて疑わなかったはずだ。私を含む多くのファンが望んでいたのと同じように、公演で、コンサートで、そしてシングルで、AKBの名を背負ってセンターに立ち続ける未来を彼女自身も思い描いていたはずだ。だが、大規模グループの力学は一人の努力と才能だけでは決まらない。試験の点数とは異なり、競争相手がいる以上、「本気になったからって誰もが勝てるとは限らない」のである。
 ファンも運営のお偉方も決して一枚岩ではない。誰かが小栗有以をセンターに置きたがり、誰かが岡田奈々をエースに据えたがるたび、我らがみーおんはその立場からそっと外されていく。懸命にして賢明な彼女には、己の周りを取り巻く力場の流れが否が応でも見えたはずだ。そして彼女は思い至ったのではないか。センターでもエースでもない、もう一つの道を偉大な先輩がこのグループに残していたことに。

 初代総監督高橋みなみは不動のセンターや絶対的エースではなかった。総選挙で1位争いを期待される立場でもなかった。それでも彼女は、150cm足らずの小さな身体に無限のリーダーオーラを迸らせ、初代女王去りし後の48グループを卒業の瞬間まで引っ張り続けた。「AKB48とは高橋みなみのことである」――秋元康氏が彼女に贈ったこの言葉を知らぬ者はいない。前田でも大島でもなく彼女こそが、秋葉原の片隅から国民的アイドルグループに成り上がった黄金AKBの象徴であったのだ。

 ファンとしてメンバーとして、その歴史を誰より知る我らがみーおんは、この先輩の背中に一縷の光明を見出したのに違いない。ステージの0番に立たずとも、劇場の柱となりグループを支える道はある。大島優子の後を継ぐことが叶わず、渡辺麻友の代わりとしても生きられないのなら、次代の高橋みなみとして生きればいい――苛烈な序列争いの激流に飲まれる中で、彼女がやっとの思いで辿り着いた岸辺がそこだったのではないか。
 それを逃げと呼ぶ人がいるかもしれない。聖域利権と揶揄する声があるかもしれない。だが私は信じる。彼女の引き当てたこのカードが、彼女自身とグループにとっての復活再生の切り札となることを。

向井地美音という物語

 前回のエッセイで、私は恐れ多くも秋元氏の言葉を引用し、「AKB第二世代とは向井地美音のことである」と書いた。
 そして、それから8ヶ月を経た12月8日の13周年記念公演。宿願の次期総監督に堂々指名される彼女の姿を見て、私は、自ら綴ったこの言葉の意味を当初とは若干違った形で噛み締めることとなった。栄光と低迷、そして未来への再起――彼女が今まさに辿らんとしている運命の波形は、彼女がこれから背負うこととなる48グループのそれと不思議な符合を見せているように思えてならない。

 かつて疾風怒濤の勢いでメディアを席巻し、推さぬ者は人にあらずと言わんばかりの隆盛を誇った我らがAKB。オーディションを突破するや否や破竹の勢いで頭角を現し、次世代エースの名を欲しいままにした我らがみーおんの新人時代をそれになぞらえるなら、彼女が先の一年で味わってきた悔しさは、落ち目と揶揄される昨今のAKBの状況と重ねることができるかもしれない。なればこそ、低迷した我が軍の再起を担うことが出来るのもまた、センター試験、選抜復帰、ジキソー指名と復活の階段を駆け上がり、今ここに新たな一歩を踏み出さんとする彼女でしか有り得ないのだ。

 ジキソー指名を受けたその日のツイートで、彼女は「長い歴史の続きを皆さんにお見せできるように精一杯頑張ります」と語った。かつて一人のファンとしてAKBに憧れた少女が、次の歴史の担い手となって、先輩達の踏み固めたその道を行く。願わくば、いつか彼女が卒業した後の未来にまで、その道が途絶えることなく続いていくことを信じたい。

 どんなメンバーもいつかは卒業する。20周年まで卒業しないと宣言したみーおんにも、いつかは必ずその時が訪れる。だが、虎が死して皮を留めるが如く、メンバーがグループに残した輝きは永遠である。
 今から10年ばかり後、「三代目総監督のみーおんさんに憧れてオーディションを受けました」という少女がグループの中心を担っているかもしれない。「桜の木になろう」をソロコンで歌って涙したみーおんのように、その子は「翼はいらない」や「君は僕の風」を歌って泣くのかもしれない。その時にこそ、向井地美音の物語は真の意味で完成する。彼女の紡ぐ一歩一歩が、そんな未来に繋がっていることを信じて、今後も彼女の足取りを見守りたいものである。

(文責 板野かも)

執筆者の紹介

板野かも

板野かも

作家・ライター。
AKB48グループをはじめとする女性アイドル関連の芸能記事を多く手がけ、また2017年よりWEB小説サイト「カクヨム」にてアイドルをテーマにした小説を執筆。WEB文芸界きってのアイドル通として知られる。

当サイト「48ers」では、エッセイ「アイドルという物語」の連載のほか、向井地美音が1位を獲得した「AKB48グループセンター試験」の解答解説を担当。

みーおんモチーフのキャラも登場

みーおんモチーフのキャラも登場

7000人のAKBファンが読んでいる人気作「IDOLIZE」には、向井地美音をモチーフにしたキャラ・雪平ミレイが登場。
作中では故人ながら、主人公の思い出の中に生き続ける先輩として重要な役回りを担う。

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